データスチュワードカンファレンス2011[東京]
2011年12月9日(金)、東京 千代田区のベルサール神保町において「Infoteria presents データスチュワードカンファレンス」が開催されました。データスチュワードとは、データ管理のための部署や担当者を指す言葉で、ビッグ・データ時代に必須の役割と言われています。開催当日は先駆的な企業の実例を学ぼうと、マスターデータ管理に注目する企業の担当者やエンジニアが詰めかけ、熱気に満ちたイベントとなりました。
各セッション速報
ビッグ・データの落とし穴!ビジネスアナリティクスの今までと、これから。
インフォテリア株式会社 執行役員/エンタープライズ事業部長 油野 達也
冒頭のセッションでは、インフォテリアの油野が、ビッグ・データ活用のために必要な視点について講演しました。油野はストレージ技術が進化した1990年代を第一次ビッグ・データ時代、ブロードバンドが普及した2000年代を第二次ビッグ・データ時代と位置づけ、それぞれの変革が起こったときの対策を振り返ることで、今起こっている新たなビッグ・データ時代への変革を乗り切るヒントを得られると語りました。ビッグ・データを集め、蓄え、処理する技術は確立しています。今持つべき視点は、そのデータを活用するということです。そして、活用を考えた際に欠かせないのが、データの量だけではなく品質を維持すること。販売管理、人事・給与管理、生産管理、財務・経理管理と並ぶ重要な業務のひとつとして、データ管理業務に力を入れるべきだと訴えました。
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MDMをはじめよう!シチュエーション別利用用途と現実解
~経営品質向上を見据えた世界基準のMDM構築術~
インフォテリア株式会社 エンタープライズ事業部 山崎 将良
続くセッションではインフォテリアの山崎から、データガバナンスを確保する上でのデータスチュワードの重要性が語られました。山崎は、企業で進められるガバナンス整備の流れの中で、データガバナンスが見落とされていると言い、管理者が明確ではないことがその理由だと指摘しました。経営や業務、システムのように管理者を設置することで、企業資産であるデータにもガバナンスを利かせるべきです。その役割を担うのがデータスチュワードであり、そのためのシステムがMDMシステムです。山崎はさらに、MDMシステムの構築手法としてステップ型実践とビッグバン型実践の例を示し、いずれの場合にもマスターデータは企業資産であり、データ品質が企業品質を左右することを意識すべきだと語り掛けました。
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ASTERIA MDM One導入成功事例:株式会社エイチ・アイ・エス様
日本企業におけるデータスチュワードのあるべき姿とは?
インフォテリア株式会社 エンタープライズ事業部第2営業部 東 瑶子
東は、インフォテリアのMDM製品「ASTERIA MDM One」の導入成功事例として株式会社エイチ・アイ・エス様(以下、HIS様)の事例を紹介しました。
H.I.S様での成功のポイントは、MDMシステムに100%の理想を求めなかったことです。
旅行業界はビジネス環境の変化のスピードが早く、MDMシステム構築に理想を追求している間にビジネスが変化してしまっています。
そこで、MDM専門のパッケージをベースに、マスターデータに熟知したデータスチュワードと共にシステムをスピーディーに構築し、「MDMを育成する」方式をとられました。
第一フェーズは、3名のご担当者によりわずか2週間で構築しています。
一気にすべてのマスターデータを統合するのではなく、優先順位度の高いマスターデータからスモールスタートさせ、順次領域を拡大させていきます。
現在、マスターデータはMDMシステムから提供され、今後のシステム開発や運用が簡素化されていくので、現場では、MDMの効果やメリットが理解され次期拡張が期待されています。
「MDM One インテグレーションパートナー(MIP)」のご紹介
MDMは単体のプロジェクトではなく、大きなインテグレーションプロジェクトの一環として求められることが多くあります。MDM製品の導入だけではなく、システム構築、運用、保守までを求めてインテグレータを探される企業も少なくありません。そうしたシーンでのASTERIA MDM Oneの導入を支援する「MDM One インテグレーションパートナー(MIP)」がスタートしました。今回のセミナーでは、MIPの各社様にもご登壇いただき、それぞれの得意分野についてご紹介いただきました。
株式会社アグレックス 株式会社アグレックス様は、データクレンジングやマスターデータ事業に長年取り組んでいます。 データクレンジング・名寄せ製品であるトリリアムを使い、ASTERIA MDM Oneにデータクレンジング・名寄せ機能を提供するソリューション「ASTERIA MDM One DQ(Data Quality)」を提供しています。 |
SCSK株式会社 SCSK株式会社様は、ASTERIA WARPの販売実績が多数あり、インフォテリア製品への理解の深いインテグレータです。ASTERIA MDM Oneを使ったソリューションとして、MDMのためのポータル画面、名寄せ、クレンジング、データモデルテンプレートなどの機能を持つ「Optimaster」を提供しています。 |
株式会社日立ソリューソンズ 株式会社日立ソリューションズ様は、業種に特化したソリューションを得意としており、ASTERIA WARPの販売パートナーでもあります。長中期的な視野でユーザー企業の課題解決に取り組む中で、MDMにも注目しており、ASTERIA MDM Oneを活用したソリューションを提供していきます。 |
【パネルディスカッション】
エンドユーザー、Sler、メーカーによるMDMの取組みについて
味の素ゼネラルフーヅ株式会社 情報システム部 井上博志氏 |
SCSK株式会社 ソリューション部 MDMサービス課 課長 矢崎隆弘氏 |
インフォテリア株式会社 執行役員/エンタープライズ事業部長 油野達也 |
モデレーター: 株式会社インプレスビジネスメディア IT Leaders 編集長田口潤氏 |
カンファレンスの締めくくりとなるパネルディスカッションでは、エンドユーザーの代表として味の素ゼネラルフーヅ株式会社(以下、AGF)から井上博志氏、インテグレータの代表としてSCSK株式会社から矢崎隆弘氏を招き、インフォテリアの油野とともにそれぞれの視点からMDMについてディスカッションを展開しました。モデレーターは、企業情報システムの担当者や事業部門のIT担当者向けの情報誌「IT Leaders」の編集長である田口潤氏です。IT Leadersでは創刊2号目にMDM特集を掲載するなど、早くからMDMに注目してきました。
まず井上氏から、AGFにおけるMDMの取り組みが紹介されました。
「マスターデータ管理は、ホスト系システムからオープン系システムへの転換に伴って浮上した課題です。ホスト系システムではマスターデータが1ヵ所にしかなかったため、マスター管理について悩むことはありませんでした。しかしオープン系になればシステムが分散するため、マスターデータの整合性を維持するための工夫が必要だと考えたのです。そこで当初はマスターHUBを構築して管理していましたが、運用負荷が膨れ上がったうえ、クラウドサービスとの連携など必要な要件も変化したため、MDMを構築することになりました。現状分析、課題分析を行ない、必要なゴールを示して経営層にMDMの必要性を訴え、実現しました」(AGF 井上氏)
こうした取り組み姿勢を矢崎氏も支持します。
「MDMの必要性はIT部門の方が現場で気づくものです。MDM単体のプロジェクトではなく、他のプロジェクトを遂行するために必要になり、そのプロジェクトの一環として導入されます。ただ、現場で気づいた必要性を各事業部門に理解してもらい、部門横断的に調整するのは難しいですね。データ管理の主管部門がないことが問題だと思っています」(SCSK 矢崎氏)
矢崎氏はそう言い、事業部門や経営層に必要性を理解してもらうためにはMDMのロードマップを描き、得られるメリットを明確にしなければならないと語りました。
田口氏からMDM構築についての考えを聞かれると、井上氏は自身の経験を振り返りながら次のように語りました。
「ホスト系からオープン系へのシステム移行、マスターデータの移行、それに伴うデータクレンジングが並行して進められるので、現場はかなり大変です。新システムと既存システムとの間にインターフェイスを作ってマスター変換するのではなく、データ変換のハブを構築することで開発負荷が下がるなど、MDMのメリットを開発企業にも訴えて理解してもらいました」(AGF 井上氏)
やはりMDMの理解を得るのは難しいのかという田口の問いには、矢崎氏が答えます。
「MDMをやりましょうという話から入ると、理解が難しくなるようです。求めるメリットを伝え、そのための手法としてMDMを使いたいと言えば理解されやすいようです。実際の構築時には、関係部署に対する調整能力を持つ人を担当者として設置してもらい、その人をバックアップすることから始めることが多いですね」(SCSK 矢崎氏)
続いて田口氏は視点を構築から運用に変え、中長期的にきれいなマスターを維持していくための手法について問いました。
「MDM以前から、その部門でしか使わないマスターはその部門で管理してもらっています。複数のシステム、複数の部門で使うマスターは、システム部門が責任を持って管理します。自分たちの部門でしか使わないマスターであっても、間違っていると自分たちが困るということがわかっているので、それぞれに責任を持って管理できていますね」(AGF 井上氏)
井上氏の言葉を矢崎氏が引き継ぎます。
「現場だけで決められないマスターもありますから、担当する事業部門とシステム部門が協力して取り組むAGFの手法は模範的な解のひとつだと思います。運用負荷という観点だけではなく、システム部門だけでは見極められないことにも、事業部門の協力が必要です。いま、データを集めるのはとても簡単で、ものすごく大量のデータを蓄積できます。しかし、すべてを活用すべきだとは限りません。自社に必要なデータを見極めて、取捨選択もしなければなりません。こうした判断は、システム部門だけではできません」(SCSK 矢崎氏)
定型的な運用パターンはあるのかという田口の問いに答えたのは油野でした。
「必要なデータはビジネス環境の変化により変わります。たとえば住所データひとつをとっても、昔は存在しなかったURLやメールアドレスという項目が今は欠かせません。そういう変化があると現場が理解するまでは、システム部門がバックアップしてあげる必要があるでしょう。現場の意識が高まれば、各部門の方もマスターデータメンテナンスの必要性を理解してくれるようになります。ただしシステム部門にも人員の余裕があることは少ないので、データスチュワードという新たなポストを設け、重要な仕事だと認識して人材を確保すべきです」(インフォテリア油野)
情報システム部門とは別に情報活用部門を持つ企業が増えていると田口氏は言い、メンテナンスや運用と、情報の活用とを分けることの是非について問いかけました。
「米国企業ではシステムの企画は社内で行ないますが、調達や構築、実装、運用はアウトソースするのが一般的です。そうした手法でシステムを効率的に活用するためには、マスターデータガバナンスを効かせるための人材が社内に必要なのでしょう。日本もアウトソーシングが進んできているので、同じようにデータ活用のための部門を持つ企業が出てきているのだと思います」(インフォテリア油野)
「油野さんの言う方向に進んでいると、私も感じています。データ活用部門の真の役割は、経営に寄り添うことにあると思っていますが、経営者が情報システム部門の上手な使い方を理解していないという課題も感じます。この問題が、MDMを難しくする要因のひとつですね」(SCSK 矢崎氏)
こうしたディスカッションを経て、カンファレンスは盛況のうちに終了しました。休憩時間や終了後に、製品やソリューションについて質問する参加者の姿も多く見られ、MDMへの関心の高さを感じた1日でした。